第143号 知事対談 (平成29年2月10日対談)
<知事対談>地域ぐるみで目指そう!ふるさとの元気
今回のテーマは「地域ぐるみで目指そう!ふるさとの元気」。 丹波市佐治でまちづくりに携わる佐治倶楽部の出町慎(でまちまこと)さんと淡路市地域おこし協力隊の横山史(よこやまふみ)さんと、知事に語り合っていただきました。
自己紹介・移住のきっかけ
出町 奈良県出身で、関西大学の建築学科を出てから、丹波市に関わる機会があり、それから今まで10年ほど、空き家の再生などを通じて地域の方と一緒に様々な活動に取り組んでいます。佐治倶楽部という団体を立ち上げていますが、そもそものきっかけは、関西大学佐治スタジオという場所を空き家を使って設けたことです。その活動をしながら、今は本業のデザイン関係の建築の設計や企画を始めています。
知事 空き家の再生事業は多いですか。
出町 佐治地域では3軒の空き家を改修しました。1年前大きな空き家を改修したところです。
知事 改修した空き家は空き家じゃなくなるんですね。
出町 大学が様々な授業を行うサテライトとして使っている所もあるんですけど、学生が来るのは夏休みなど長期休暇の時だけなので、それ以外の時は、チャレンジスペースと名付けて地域の方々で活用しています。
知事 出町さんは丹波にとうとう移り住まれましたが、どうしてですか。
出町 いずれは移り住もうと考えていたんですけど、きっかけは結婚ですね。
知事 女性の力は強いんですね。横山さんも、もともと淡路島じゃないんですよね。
横山 はい、北海道出身です。
知事 北海道といっても広いですが、どちらの出身ですか。
横山 北海道道東のオホーツク、北見です。
知事 北見の人がなぜ淡路島なんでしょうか。
横山 私も大学は同じく建築学部で、最初は秋田県や北海道で住宅を建てていたのですが、作るよりもしゃべることや発信することが得意だったので、 雑誌社に転向して、新千歳空港のおみやげガイドの創刊編集長をさせていただきました。その後東京で10年間働き、コンサル業や飲食店さんのPRなどいろいろな仕事をしましたが、 5年前に独立して、淡路島カレーの事業立ち上げに参画しました。淡路島の玉ねぎを使い、淡路島の工場で作って、地元のNPOさんと連携をして、淡路島カレーというブランドをつくりました。 飲食店にご紹介したり、グラフィックデザイナーとしてメニューやポスターなども作成しました。仕事をきっかけに淡路島に来て、魅力に惹かれてしまいました。
知事 お二人ともそれぞれの地に惹かれて、腰を落ち着けていただいたんですね。
横山 そうですね。東京生まれの主人も淡路に・・・
知事 ご主人も淡路に引き寄せてしまったんですね。お二人はよく似ています。
出町さんは、元々日本建築学会の青垣を舞台としたまちづくりのシナリオコンペに応募され、平成18年には丹波市長賞を受賞されました。このシナリオづくりを通じて佐治にも出会われたわけですが、コンペに応募された特別なきっかけがあったんでしょうか。
出町 建築の設計をずっと勉強してきたんですけど、建築の設計よりは、集落やまちづくりに興味がありました。
知事 ひとつひとつの建物の設計よりは、その集合体としてのまちやそこに暮らしている人々との関わりに興味があったんですね。
出町 関西大学の建築学科にいた時もそういうことを研究する研究室に所属していたんです。実は、卒業設計の研究のために大学の最後の1年間は横山さんもおられる淡路島にいたんです。
知事 淡路島にいたんですか。やっぱり共通項があるんですね。
出町 今日はすごく縁を感じます。1年間、集落調査などをしたのがきっかけで、集落に関わる活動を将来やりたいなと思っていたんです。それで大学を卒業する時も就職活動をしなかった。そういう仕事が出来る環境はその当時なかったんです。だったら就職せずに、自分で仕事をつくろうかなということを若気の至りで考えて、就職しなかったんです。そしたら、フリーランスでいた時にこのコンペがあり、それに応募したのがきっかけです。
知事 それでもう10年ですか。出町さんの関心は、今非常に最先端なテーマなんですよね。高齢社会が進み、高齢者の健康をどう確保していくか。それは個々人の活動にも負うところはあるんですが、高齢者の健康を支えるシステムが出来ていないといけない。まちづくりそのものも高齢者の健康を考えて進めていかなければなりません。最先端の活動を出町さんがやっていただいていると思いますので、大いに期待します。丹波は高齢化率が高いですからね。
出町 丹波市は大学がないので、大学生の世代がごそっと抜けるんです。関西大学の学生が佐治スタジオを拠点に頻繁に来るとその時だけでも平均年齢が下がる。地域に若者の姿があって近所の方々は喜んでくださるので、良かったなと思います。
知事 横山さん、淡路島はどういうご縁だったんですか。最初から玉ねぎじゃないですよね。
横山 東京でコンサルティング会社にいた時の先輩から「淡路島カレーやるぞ」と言われて、「はい、手伝わせていただきます」というのがきっかけです。
知事 淡路島に来てみたら、いかがでしたか。
横山 北海道にはない魅力がいっぱいでした。
知事 北海道は北海道で魅力あると思いますけどね。
横山 そうですね。ただ当時、東京渋谷のど真ん中に住んでいたんです。毎日、人と情報に囲まれて、いろんな勉強をさせていただいて、いろんなコミュニケーションをとれたんですけれど、ある程度学ばせていただくと、いい環境で暮らしたくなるんです。あと食べ物ですね。 スーパーが近くにない。そんな時に淡路島に来てご飯を食べたら、美味しいこと美味しいこと。玉ねぎはもちろん、お米も味がいいです。魚、お肉、牛乳、卵も美味しいし、淡路島で全部揃っちゃうんじゃないかというぐらい多様性がありましたね。ここで子どもを産んで育てたいと思ったので、淡路島に住むということを決めました。 淡路島の生産者が東京で淡路島の食材をPRするマルシェをお手伝した際に、淡路市の地域おこし協力隊という制度を教えていただき、応募しました。
知事 5年程住んでみていかがですか。
横山 毎日海の色も空の色も違うんです。自然の変化をすごく感じられ、ざわざわした心が落ち着きます。
知事 それは横山さんに自然の変化を感じられる素直さがあるからですよ。
地域を元気にする活動
知事 今、地域おこし協力隊のメンバーとして、具体的にどんなことをされているんですか。
横山 東京の丸の内にある佐渡島の特選館の中にスペースをお借りして、島つながりで連携しながら東京の方にPRしていこうと、淡路市が、2015年7月に淡路島アンテナショップをオープンしました。 私はオープンと共に地域おこし協力隊として淡路島の特産品等のPR活動をしています。
知事 淡路島のコーナーが特選館の中につくられているのですか。
横山 はい、特選館の中に淡路島の商品を置いています。毎月私が行きまして、淡路に興味のある方に直接フェイスツーフェイスで淡路島の魅力をお伝えする活動もしています。 また、渋谷のイベントスペースを借りて、淡路島の食材を食べながら、どうしたら淡路島の観光を楽しめるか話し合ったり、移住に興味がある方の相談にも乗っています。 去年のゴールデンウィークは、淡路島に実際に来たいという方を対象にワーキングホリデーをやりました。
知事 どのようなワーキングホリデーだったんですか。
横山 ゴールデンウィークは観光客が多いので、飲食店やお土産屋、あとトマト農家などでお手伝をする。観光に来たついでに、働くと暮らすを体験するという企画です。 フェイスブックで募集したところ、2日間で20人の応募があり、16人の方が淡路島に来ました。
知事 そういう感じで、結構手を挙げていただけるんですね。
横山 募集の時に、「淡路島の方が人手がなくて困っています」と書くと、「私でよかったら手伝いますよ」と来てくださった方もいます。 ボランティア感覚と観光を楽しみたい、あと何より地元の方と仲良くなりたい、お友達をつくりたいという方が非常に多かったです。
知事 去年、淡路島は日本遺産に指定されましたでしょ。淡路島に関心を持っておられる方はかなりいらっしゃいますか。
横山 淡路島にどうやって行ったらいいのという相談は非常に多いです。インターネットやSNSを活用して、この便に乗って神戸空港に来て、そこからポートライナーに乗って、 何時のバスに乗ると淡路島に来られますというタイムスケジュールと1泊2日のツアープランを発信しています。
知事 東京の人は、淡路島にどうやって関心を持つんでしょうか。横山さんの色んな発信に関心を持ってくれて淡路島ということでしょうか。
横山 淡路島は東京からのツアーが少ないものですから、旅行代理店にもアプローチをしていますが、やはり人対人、多くの方が集まる場所に出かけて行って、 そこで淡路島のPRをさせていただいたり、企業とコラボレーションをしています。仕事や移住に興味があるなど、接点を持つことを期待して来られる方を増やすことが必要です。 日本遺産に関してもきちんと「こういう事ですよ」とお伝えすることが非常に大事だと感じています。去年は淡路市の部長と一緒にサンマリノに行きましたが、ヨーロッパの方が歴史の深さという部分で日本に興味 を持ってくださり、その中でも淡路島に、興味を持ってくださいました。
知事 出町さん、丹波だと何をPRされますか。
出町 今、猟師さんと関わる機会がすごく多いんです。鹿もイノシシも美味しいですけど、狩猟文化、山と関わる文化が豊かだなと思っています。 だんだん猟師さんも高齢化して、そういう文化が失われつつあるので、伝えられる方がたくさんおられるうちに、山の文化を発信していきたい。 海の漁師めしが一時はやりましたけど、山の猟師めしということで、知り合いと一緒にツアーなどもしています。
知事 これからの丹波を考えたときに、どうやってまちづくりをして、活性化していったらいいと思われますか。
横山 いくつか思っていることがあるんです。まず、大学や就職で出ていく話がありましたが、大学の時に一度外に出ていくことは、いろいろな経験を積めるのですごく大事なことだと思います。 その後、都会で働くのか、地元に戻って働くのか選択をする時に、選択肢をどうやって持ってもらえるのかということ重要だと思っています。 小中高の時にいかに地域との接点をつくっていくか、地域に対する愛着を持ってもらうかというのがすごく重要だと思っています。小中高生が地域の大人と一緒に地域のイベントやまちづくりに参加していく活動を大学生などと一緒にずっとやっています。 そういう体験をきっかけに、彼らが大きくなった時に「丹波は面白いから丹波に帰りたい」、「都会もいいけど暮らすのは丹波やな」と言って帰ってきてもらいたい。
知事 それが、私たちも期待しているところです。ふるさと意識をどこで持続的に持っといてもらえるか、定年後でもいいんですけど、いつかは錦を飾らなくてもふるさとに帰るという意識を持ってもらうといいんですけどね。
出町さんもフェイスブックやSNS繋がりはあるんですか。
出町 それが僕は全く逆で、ほとんどフェイスブックとかはやらないんです。ローカルに地元で活動しています。お便りを毎月だして、こんなことやります、今度空き家を使ってこんなことをやろうと思っていますけど一緒にやる人いませんかという話をできる限りアナログでやっています。
知事 アナログでもかなり集まりますか。
出町 そうですね。佐治倶楽部の会員は地域の方々を中心に60人ぐらいで活動をしています。空き家を使って何かやりたいとか、空き家を課題だと思っている方に集まってもらっていて、常にアンテナを張ってくださっています。
知事 空き家を利用されるのであれば、水回りを直す場合などに100万円、地域の拠点施設の場合は500万円の助成がありますので、ぜひご利用ください。
空き家の持ち主は東京や大阪に出ている方が多いので、地元の人と付き合いがないんですね。フランクな人間関係が出来てないから難しいところがある。その仲介に佐治倶楽部がなっていただけると機能していくのではないかと思うんですけどね。
出町 丹波市全体の空き家対策は出来ないですけど、小さな佐治という地域の中であれば十分出来ると思うので、各地域に小さくてもいいので、空き家の活用や管理をする団体が出てくるといいのかなという気がします。
これからの抱負
知事 ではお二人にこれからの抱負を。出町さんは、3つやりたいことがあるうち1つご披露されたので、あとの2つを言っていただいてから抱負をあわせてお話ください。
出町 地元に住んでいる方が実はあまり地域に積極的に関わっていない。自分のやってみたいことがあるのに、丹波市では無理だからやらない、こういうお店が欲しいけどないからしょうがないという感じです。 だから僕は「ないなら皆でつくりませんか」と話を持っていくんです。地域の人がもっと地域をよくしていくために関わっていくことをやっていきたい。佐治倶楽部はそのひとつのきっかけです。
あと、こんなにたくさん学生が関わってくれているので、卒業後も家族を連れて訪れるような仕掛けをつくっていきたい。
知事 第2のふるさとにして欲しいんですね。
出町 第2のふるさとにして欲しいんですね。
知事 そうですね。淡路島で1年間過ごされたから。
出町 いろんなふるさとのひとつに丹波市がなってくれたらいいなと思います。
知事 これからの抱負はいかがですか。
出町 空き家がまだまだ課題だと言われています。僕自身は空き家は資源だと思っています。空き家を使うことでチャレンジしたいことが出来る、いろんな人に関わることができる。 こんなことをやったら地域が楽しくなるんじゃないか、僕たちの暮らしが楽しくなるんじゃないかと、前向きになっていくための資源として活用していきたい。 今もそうですが、これからも地域の方々と一緒になってそういうことに取り組んでいけたら嬉しいなと思っています。
知事 ぜひよろしくお願いします。横山さんはいかがですか。
横山 地域おこし協力隊は最大任期が3年であと1年残っているんですが、卒業後どうするのとよく聞かれます。 淡路島で「株式会社淡路島営業」を立ち上げたいと考えています。まず、「食」。東京と淡路を行ったり来たりして飲食店に食材をPRする営業活動。 次に「人」。求人のマッチングを中心に淡路島に新しい仕事をつくる。グラフィックデザイナー、カメラマン、コピーライターさんなどが淡路島の企業と一緒に仕事ができるような仕組みもつくっていきたいと思っています。 もう1つは「旅」。生産の現場を回るツアーや勉強になるもの、移住のきっかけになるような企画をしていきたいなと考えています。
知事 活躍フィールドが非常に広くて、ひとりではやりきれないですね。
横山 とにかく忙しくてパワフルな人ってよく言われます。
知事 定住人口を減らさないという対策も重要ですが、交流人口を増やした方が対応しやすいんです。年間1万人の人口減に対して交流人口を365万人増やせばイコールですから。 お二人に交流人口を増やすための仕掛けをおつくりいただいていることを大変心強く思っています。交流人口というのは観光だけではなく、勉強に来る、少しの期間働きに来る、いろんな形があり得るはずなんですね。 今日はその先頭を走っていただいているお二人とお話が出来たことを嬉しく思います。本当にありがとうございました。