第147号 知事対談 (平成31年2月14日対談)
<知事対談>自然豊かな“まち”に飛び込み、ともに賑わいづくり
今回は「自然豊かな“まち”に飛び込み、ともに賑わいづくり」というテーマでお話を伺います。猟師の福井さんと、スポーツインストラクターの加藤さんに、知事と語り合っていただきました。
自己紹介
加藤 京都の舞鶴市出身で、3年前に地域おこし協力隊という制度を活用して、宍粟市に移住しました。地域おこし協力隊の時は、観光支援として「森林セラピー」のガイドや、イベント業務を、現在は、観光の仕事もしながら、地域の方に運動を教える「スポーツインストラクター」として活動しています。
福井 明石から神戸の西区あたりに50年近く住み、地域おこし協力隊制度を活用して佐用町へ。獣害で困っておられる地域への助けになるということで、猟師の修行をして、協力隊が終わった以降も、その活動を続けております。
地域おこし協力隊の活動
知事 福井さんは、なぜ佐用の地域おこし協力隊員になったのでしょうか。
福井 正直、行きたい場所の候補にしたのは高知、岐阜で、兵庫県は入っていませんでした(笑)
「今までと真逆の生き方がしたいな」と思い、ある程度の年齢になってから「田舎で農業がしたい」と移住先を探したのですが、そう簡単には見つかりませんでした。
一時は諦めましたが、東北の震災の映像を見て、「どこでもいいから人の手助けがしたい」と思い、知り合いに佐用町の小規模集落サポーター事業を紹介していただきました。
知事 では、加藤さんが宍粟に行ったのは、どういう理由ですか?
加藤 地域おこし協力隊が、メディアなどでオープンになってきた時期で、その存在を知りました。
調べていると、たくさんある中から「森林セラピー」に興味が沸いたのですが、宍粟市しか募集していませんでした。兵庫県に宍粟市という場所があることさえ知りませんでしたが、自然と山登りが好きで、情報を見ると山がたくさんあることが分かりました。
宍粟市に行くと、もう「来てくれるだろう」という感じだったので、「行きますー!」と決めました(笑)
知事 森林セラピーでは、ずいぶんガイドをされたのですか?
加藤 オープンする前から、試験的にいろいろな方をお招きしました。現在は、地元の方がたくさんガイドをしていらっしゃるので、お任せしています。私は、会社関係の方や、メディア関係の方の時にガイドします。
知事 加藤さんは、森林セラピーガイドの先覚者なのですね。
加藤 まだまだ自分には足りない部分もあります。地元の詳しい方に、今も教えてもらっています。
知事 隊員当時のエピソードは、何かありますか?
福井 一番初めということで、町も何をさせていいのか、ダメなのか、試行錯誤の時期でした。僕も生意気で「下請けなんかはせんぞ」と言って(笑)担当の7集落で「何をしましょうか?」と聞いて回ると、どこの集落でも「草刈りをしてくれ」と言われました。
自分としては「これでいいのかな?」とも思う部分もありましたが、それが一番喜んでいただける仕事でした。
知事 集落の高齢化が進みすぎて、作業する方も少なくなってしまったのですね。
福井 そうですね。働き盛りの方はお勤めに出られていて、休みに合わせて、集落共同で草刈りをする。私もその日に合わせて、協力隊として草刈りをしました。力のある集落もあれば、そうではない集落もあります。その中で公平に回るというのが、一番難しかったです。
知事 お住まいはどのように確保したのですか?
加藤 行政の方が見つけてくださっていました。あとから話を聞くと、裏ですごく頑張ってくださったようで、ありがたかったです。
福井 予算内で探してほしいという依頼をしました。3件の候補のうち、1軒目が標高300 メートル程にある佐用町の目髙集落。当時は4世帯で7人の方が住んでいらっしゃいました。
集落に入る手前、カーブを曲がったところで、いきなり、崖にへばりつくような集落が現れて、ものすごく良い景色で一目惚れしてしまいました。現在も、住み続けています。
猟師の仕事
知事 福井さんは、なぜ佐用の地域おこし協力隊員になったのでしょうか。
福井 佐用に行く前に集落の方と面接した時に、開口一番「お前、猟師に向いとるぞ!猟師せえへんか?」と言われて、ずっと頭に残っていました。狩猟免許を取って、箱罠(檻になっている罠)を設置する場所も、仕掛け方も分からないし、金額的にも高いものなので、先輩にお借りしました。自分なんかの罠にはかからないだろう、と高を括っていたのですが、翌日60キログラム程のイノシシがかかっていまして。
知事 衝撃的デビューですね。
福井 初めて見る大きいイノシシでした。先輩に、トドメを刺す「止め刺し」をお願いして、鉄砲で撃っていただきました。
すぐに「放血(血抜き)」をしなければ臭みが増すので、「放血ぐらいは自分でしなさい」と言われましたが、まだ息のあるイノシシの喉元にナイフを刺す、というのがどうしてもできなくて・・・。思わず「ごめんな」と言ったら、「ごめんなって思うんやったら猟師をするな!ごめんなって思うようなことをうちらはしとるんか!」と怒られました。 猟師をやりながら、「動物の命」についてずっと考えています。
加藤 私も猟師をしていますが、とても共感出来ます。初めての時は、どうしていいのか分からなくて・・・。最初は抵抗がありましたね。
知事 森林セラピーのガイドをしている途中から、猟師をやる気になったのですか?
加藤 観光の仕事は、市外の方との関わりが多く、地元との関わりが少なかったんです。「地元の方とも一緒に何かをしたいし、田舎暮らしもしてみたい」と思っていた時に、鹿が急に道路に飛び出してくる話を聞いたり、私の畑で作っている野菜を食べられたりしました。
地元の皆さんも困っているし、「猟師の数が少ない」「する方もいない」。そこで、私でもできるのではないかと思い、猟師を始めました。
知事 今のシーズンは鹿やイノシシですよね。何頭くらい捕れるのですか。
福井 一番いい時は、鉄砲で年間45頭捕りました。その年でも、イノシシの数は3頭でした。イノシシは警戒心の強い動物なので、なかなか出てくれません。鹿は、佐用町では人口より鹿の方が多いです(笑)
加藤 私は罠がメインです。基本的に被害が出ているところに罠を仕掛けるので、今年だと月3頭くらいですね。あとは、地域の方に協力を頂いて、捕ってもらい、処理は私が行くという連携もしています。自分で作った電気の槍を使ったり、近寄れない時は、私が鉄砲を持って行ったりします。
知事 今日、福井さんが着ている制服は何ですか?
福井 猟友会の制服です。猟友会の会費を払えばもらえます(笑)
加藤 私も持っています。
知事 猟友会メンバーだという“しるし”ですね。
スポーツインストラクターの仕事
加藤 猟もしていますが、現在の主な仕事は運動の指導です。
知事 どういう方がお相手なのですか。
加藤 地元の高齢者や、お母さん方です。市が行う運動教室の講師として、認知症予防、ダイエット、筋トレ等をしています。
他にも、自分で体育館を借りて、エアロビクスやダンスも。市内の4町全てを、ぐるぐる回っています。
知事も一度、認知症予防の体操をやってみませんか?
知事 このような指導の仕方はどこで覚えたのですか。
加藤 前職は小さいスポーツクラブで、トレーニングからプールまで、様々な経験をさせてもらいました。宍粟市に管理栄養士や保健師はいらっしゃいますが、運動を教える人は、数が少なかったみたいですね。
知事 お二人とも、今の生活が楽しそうですね。
このまちにやってきて
知事 「こうすれば、もっと地域が元気になるのにな」と思ったことはありますか。
加藤 私が来た時は「何か新しいことをやってみよう」というタイミングでした。現在は、まさに色々な事に挑戦している地域ですので、「ああしたら良い、こうしたら良い」ではなく、「お手伝いしたい」「頑張っている後押しをしたい」という心境です。例えば、伊和神社の「日本酒発祥の地」、「森林セラピー」等々。
市・行政だけでなく地元の方が発起人のイベントも増えています。
知事 お手伝いしていて、手応えを感じますか?
加藤 外からの参加者が増えていますね。
ただ、田舎の方は心が優し過ぎるので、訪れた方が十分喜んでくださっていても、「あれもしよう、これもしよう」と更におもてなしをしようとして、疲れてしまわないか、という点が心配です。
知事 大変共感します。
福井 本当に同感です。「来て頂きたい」という一心で、豚汁を作ったり、おにぎりを作ったり、餅つきをしたり、地元の方はとても努力をされています。でも「地元の努力に見合うだけの感謝をしてくれているのかな?」と、常に疑問が残ります。
田舎に来た方ではなく、地元の方が報われるようにお手伝いをしたいと思います。何をすれば田舎が元気になるのか、考えていきたいです。
知事 兵庫県は2008(平成20)年の小規模集落元気作戦(現:地域再生大作戦)で、65歳以上が40%以上、50世帯以下の集落を「小規模集落」と定義しました。
10年前は240程でしたが、今はもう500を超えています。世帯数が減ったのではなく、この10年で平均年齢が上がって、多くの集落が定義に当てはまりました。住んでいる人は地域や来訪者のために頑張っていますが、若い人が少ないことが課題です。
そういう意味では、加藤さんは大歓迎ですよね。福井さんの場合は・・・。
福井 最初の頃は、若い人に来て欲しいというのが、地元の人の話に結構出てきましたね。「おっさんでごめんね」と(笑)
知事 仲間が来たなという感じで(笑)
10年活動してきて、集落は元気になっているけれど、中心人物が10歳年を取っている。「その元気を誰が引き継いで行くのか」「若い人たちに、どう集落に住み着いてもらうか」がこれからの課題です。
未来の隊員へアドバイス
知事 2019年度から「兵庫県版の地域おこし協力隊」の派遣を始めます。小規模集落からの相談対応や、地域を応援したい都市住民への案内ができる「ふるさと応援交流センター」を設立し、兵庫県版の協力隊の募集・派遣などの準備を進めています。
新たに、地域おこし協力隊や県版の協力隊を目指す方に、アドバイスをお願いします。
加藤 自分自身が何をやりたいのかわからない方もいると思いますが、行ってみて、感じ取ってみて、頑張って自分の力を発揮してみる。自分の正直なものを隠してしまうと、地元の方も心を閉ざしてしまいます。「できなければできない」「できるならできる」というふうに、オープンにして行くとスムーズです。
期待はされていますけど、プロではないので、「地元の方と一緒にやっていく」というスタンスで、「自分一人で頑張らなくていいよ」という所はアドバイスしたいですね。一人でやっても、地元が、周りの方が、仲間がついてこないと、しんどい部分や、上手くいかない部分もでてきます。
福井 自分と同世代の方へのアドバイスですが、多くの方が「田舎に行ってのんびりしたい」「自給自足の生活がしたい」「ゆったりした生活がしたい」というイメージを持ちがちですが、田舎の人ほど働く人はいません。休日には村の行事や交流活動。平日は勤めに出ながら田んぼをして、というのが田舎の方の実情です。
そこに協力隊、手助け、ボランティアとして来てのんびりされると、地元の人は多分、気を悪くします。ボランティアであろうが、休日であろうが、「地元の人と一緒に活動する」という心がけを持ってきていただければ、田舎の方はものすごく大事にしてくださります。
これからの抱負
福井 狩猟を経験して、一番強く感じたのは命の大切さです。鹿やイノシシの命も大事ですけど、人間の命はもっと大事です。狩猟をして、動物の命を奪うことで、より深く考えさせられました。
まだその答えは出ていませんが、その大切さを子供たちに伝えていきたいです。現在は、西はりま天文台の自然学校等で、子供たちと触れ合う機会があるので、そこで命についてお話しています。
加藤 地域の元気は、そこに暮らす人々だと思っています。私が運動の指導やお助けをすることで、地域がさらに元気になればいいなと思います。今は特に認知症予防や、高齢者の施設に行って運動の指導をしています。高齢者ご自身が今の地域を作っていますし、その方々を元気にして、地域の元気を作っていきたいです。
お年を召されると家で笑うことが少なくなると聞きますので、笑う機会を作っていきたいです。
知事 地域の人たちを励ますとか、地域の人たちの中に入り込んで一緒に活動するといった、地域おこし協力隊の経験が活きているお話が聞けました。お二人のように、多自然地域で頑張っている方のこれからの活動に期待を申し上げます。ご活躍をこれからもお祈りしております。本日は、本当にありがとうございました。
加藤 ありがとうございました。
福井 ありがとうございました。