第149号 知事対談 (令和2年2月12日対談)
<知事対談>阪神・淡路大震災25年~防災力強化の取り組み~
はじめに
令和2年1月17日に阪神・淡路大震災から25年が経過しました。 今回は「阪神・淡路大震災25年~防災力強化の取り組み~」をテーマに、防災士の横山恭子さんと神戸学院大学任意団体Seagull Rescue(シーガルレスキュー)代表の井手口健司さんに知事と語り合っていただきました。
自己紹介
横山 神戸市出身、加古川市在住です。阪神・淡路大震災は加古川市で被災し、その時初めて災害ボランティアに参加しました。平成18年に加古川市女性消防団に入団し救命講習や消火活動に従事しましたが、防災では災害発生前の活動が重要だと考え、三木の広域防災センターでひょうご防災リーダー講座を受講し、防災士の資格を取得しました。
知事 講座を修了した防災士は2,786人で、その内、女性防災士が565人で2割。結構多いですね。
横山 資格を取られている方は多いですが、どこまで活動できているのかは疑問です。これからは質を上げていかないとと思っています。
知事 広域防災センターに宿泊施設をつくろうと来年度予算案に計上しています。例えば防災士のキャリアアップセンター等に活用したいと思っています。 続いて井手口くんお願いします
井手口 地震から3年後の平成10年に神戸で生まれました。舞子高校環境防災科に通う姉の影響で防災に興味を持ち、同じ高校に進みました。もう少し防災を勉強したくて神戸学院大学へ入学し、Seagull Rescue(シーガルレスキュー)へ入り、今、代表をしています。男子学生が20名、女子学生がマネジャーを含めて9名の計29名で活動しています。
知事 Seagull Rescueという名前の由来は?
井手口 神戸学院大学のマークがカモメで、そこから命名しました。
知事 神戸学院大学のレスキュー隊だからSeagull Rescueなのですね。
子ども向け防災啓発活動「ちびっこBOUSAIトライアスロン」
知事 どのような活動をされていますか。
井手口 「震災25年若者キャンペーンプロジェクト」で兵庫県の支援金をいただき「ちびっこBOUSAI(ぼうさい)トライアスロン」というイベントを、ポートアイランドの小学生やその家族を対象に大学キャンパスで行いました。子どもたちに防災の大切さと119番通報や搬送の方法などを教え、保護者には南海トラフの危険性や子どもと助け合わないといけない点などを話しました。
知事 参加者はどうやって集めたのですか。
井手口 SNSで広報し、チラシを港島小学校で配布しました。募集定員は毎年5家族10組程度です。
知事 毎年ってことは何年もしているのですか?
井手口 先輩から引き継ぎ毎年開催しています。「今年もやるんやな」と学校や地域の恒例行事になりつつあります。
知事 それは良い企画を震災25年で実施してくださいました。1月17日をどう迎えるか、特に震災を知らない人たちにどう伝えていくのかを考えた時、大学生の皆さんが活動し発信する事業がいいと「震災25年若者キャンペーンプロジェクト」を展開しました。また、25年という1つの節目ですので、県内の100以上の団体にシンポジウムなど記念事業を実施していただいています。
子どもたちにしっかりと伝えていく活動を今後も続けてくださいね。
井手口 はい。子どもに興味を持ってもらえるよう「ちびっこBOUSAIトライアスロン」という楽しい名前をつけています。子どもたちはまず練習で救助方法を学び、その後本番に移ります。本番では僕たちの仲間が腕が痛いとか、パーティションを瓦れきに見立て「挟まれた。助けて!」と言って被災者役を演じます。子どもたちは分からないところを教わりながら被災者を助けていきます。ゲームに参加している感覚で楽しく学んでいました。
知事 「楽しく」が1つのモチーフですね。
井手口 はい。僕たち自身も楽しくやりたい。自分たちが楽しく企画運営し、子どもたちに防災の知識や技術をわかりやすく楽しく伝えるように工夫をしています。「ちびっこBOUSAIトライアスロン」終了後は、参加者に修了証を渡しています。
知事 それが励みになるのですね。学生さん自身が学ぶだけではなく、学んだ知識や技術を伝える活動をしていただくことは心強いです。
井手口 ありがとうございます。
地域や学校の防災アドバイザー
知事 横山さんは、防災士として日ごろどのような活動をされていますか?
横山 自主防災組織や自治会が実施する防災訓練などに企画運営から入り、アドバイスをしています。「防災訓練に人が集まらない。どうしたら集まるか」「防災訓練の内容はどんなものがあるか」と相談されることが多いです。
知事 どのようなアドバイスをされますか?
横山 「人がたくさん集まる行事は何ですか」と質問すると、ラジオ体操や運動会とお返事が返ってくるので「そこに防災を取り入れましょう」と、人が集まる地域行事に防災訓練を入れていくことを提案します。
知事 地域の人は戸惑っていませんか?
横山 最初はそんなやり方があるのかと驚かれます。例えば、ラジオ体操に毎回子どもから高齢者まで100人集まる自治会では、年1回ラジオ体操後に炊き出しをし防災講話を聴くという防災訓練を実施し、長く続いています。防災訓練に人が集まらないということも解消されました。炊き出しの練習にもなるし、朝ご飯や食の大切さなども伝えています。
知事 食育にもなっているのですね。県が備蓄している防災食も消費期限が切れる少し前に処分しますが、防災訓練などで活用してもらうのが一番いい方法ですね。炊き出し材料はどうされているのですか。
横山 加古川市からいただいたり、県に相談をしたり、自治会の備蓄品で消費期限が近い物を入れ替えたりしています。防災食にこだわらず、地産地消でみんなが材料を1つずつ持ち寄ることもあります。
知事 地産地消も心がけているのですね。
知事 地域の自主的な防災活動を進める上で、横山さんはどのような点に気をつけておられますか。
横山 井手口君と同じく「楽しく」を一番に考えています。防災講演では「いいお話だった」で終わることが多いので、それよりも楽しく思い出に残る訓練を大切にしています。楽しかったらお家や近所の人に話したくなりますので、そこからも広めてもらえたらいいなと思っています。
知事 「楽しく」というキーワードは重要ですね。
井手口君のグループは地域の防災訓練に参加しますか?
井手口 神戸市から大学へ依頼があり、防災訓練などにブース出展をすることがあります。今後は自分たちから声かけをしていこうと話しています。
「しつけ防災」
知事 横山さんは生活の中に防災を取り入れる活動をされているそうですが、どのような活動ですか?
横山 まず「防災は特別なものではない」とお話しさせていただきます。今、新型コロナウイルスが蔓延していますが、これも災害ですよね。「子どもが外に遊びに行きだしたら、家に帰った時に手洗いうがいをする、そのしつけから始めましょう」と伝えます。防災、防災と特別に言わなくても、小さい頃から当たり前に身につけていけば、安全な社会ができるのではないかと考えています。
知事 なるほど。それは素晴らしいですね。
横山 子どもたちに最初にしてもらいたいのは部屋の片づけです。「ブロックを踏んだら痛いよね。地震の時は部屋がぐちゃぐちゃになるよ。使ったら片づけよう」と話します。このような「しつけ防災」を勧めています。
知事 子どもたちはちゃんと聞きますか?
横山 最初はなかなかできないかもしれませんが、防災訓練などで聴いたことをもとに、ご家庭で会話しルールをつくることが大事だと思います。大人だけではなく、子どもと一緒に考えたら全員の防災意識が高まります。
知事 三木にあるE-ディフェンス(実大三次元震動破壊実験施設)で2年に1回、県としてテーマを設定し実験をしてもらっています。阪神・淡路大震災と同規模の地震が発生した際、超高層ビルの30階ではどんな揺れ方になるのか再現したのですが、ピアノが部屋の中を走り回り、食器棚などは倒れました。家具が倒れないように固定器具をつけることが非常に重要です。
南海トラフ地震が発生したら更に横揺れが激しいと思われます。固定器具は1分程度しかもたないでしょう。けれど、その1分間が重要ですよね。安全な所に逃げられるから。
ですから今、県民の皆さんに強く呼びかけたいのは、自分の命を自分で守る取り組みです。「しつけ防災」はそれに通じますね。
横山 そうですね。防災対策にはタイミングもあると思います。例えば大掃除の時に家具に固定器具をつけるなど、タイミングもわかりやすく伝えてあげると取り組みやすいと思います。
知事 横山さんがおっしゃっている、生活の中に防災を取り入れて定着させることは私たちが言っている「災害文化」です。災害文化が受け入れられた社会は、防災についての認識や行動が自然に行われている社会と位置づけています。災害文化が定着している社会にむけて、実践者としてよろしくお願いします。
防災活動を行う上で大切なこと
知事 お二人が活動を進めるにあたり大切にされていることは何ですか?
井手口 継続することです。それと僕たちが伝えたことを子どもや地域の人たちがちゃんと理解し、覚えてもらえているかも重視しています。防災活動につなげていくため、実際に災害が発生した時に子どもたちが知識や技術を使えるようにしたいと思っています。
知事 横山さんはいかがですか。
横山 今一番大切にしていることは、自主防災組織や家庭が自立することで、それを後押しする活動をしています。例えば学校の防災訓練では授業中に地震や火事が起きるという場面設定が多いのですが、そこを1度見直してもらい、ここの地域だったらどんな災害が起きる可能性があるのかを考えてもらいます。また、障害のある生徒さんが多い学校であれば、それを踏まえて子どもたちをどのように避難誘導していくのか見直してもらいます。
知事 障害者の防災訓練を手伝われたのですか?
横山 企画段階からご一緒し、防災訓練をしました。ある避難訓練コンサートに参加した時、車いすの方達が訓練開始前に会場外に誘導されたのを見たのがきっかけです。障害者が災害時に体験するかもしれない混乱状態はリスクが高いため、防災訓練ではなかなか実践されません。そこで、障害者とそのご家族や支援者を対象に、車椅子を抱えて階段を降りる訓練を企画実施しました。開始前は訓練への参加希望は1組だけでしたが、防災講話などを聴かれてお気持ちが変わり、結果として全員が体験されました。
今後の抱負
知事 最後に、横山さん、これからどのような活動を展開されますか?
横山 災害が起きる度、災害弱者の逃げ遅れが取り挙げられますが、災害弱者の方からは「逃げ遅れじゃない。逃げられなかった」とお聞きします。これを今一番早急に解決したいと、防災介助士という資格を取りました。これからは福祉防災に力を入れようと思っています。災害弱者の方、障害者だけではなく、小さい子どもさんも、怪我をされている方も守ることができれば誰もが住みよいまちづくりにもつながると思っています。
知事 ぜひよろしくお願いします。井手口君は?
井手口 子ども+地域を意識しています。今は大学キャンパスでのイベント実施がメインですが、今後は地域へ出向いた防災活動を進めていきたいと思っています。
知事 出前防災教室ですか?
井手口 はい。昨年、徳島県で一度実施しました。防災を教えに行ったのですが、その地域には漁師や農家の方がいらっしゃってロープ結索では僕たちより詳しく、逆に教えてもらいました。僕たちがいなくても、地域の中で防災のロープ結索が学べるのです。自分たち学生が地域の防災訓練に入ることによって、地域で新たな顔合わせができました。このようなきっかけづくりが兵庫県でも出来ればいいなと思っています。
知事 今日は現場で活躍をされている横山さんと井手口君にお話しいただきました。お二人のご活躍をこれからも大いに期待しています。ありがとうございました。
横山 井手口 ありがとうございました。