製本技術を活かした社会貢献~「本のお医者さん」 -
グループ会社の兵庫ナカバヤシ株式会社の小谷英輔工場長にお話を伺いました。
ナカバヤシ株式会社と言えばアルバムが有名ですが。
ナカバヤシと言うと、アルバムづくりだけをしていると思われがちですが、大正12年(1923年)に図書館製本業として創業しました。それ以来、国公私立図書館や大学図書館等での合冊・合本等の製本や資料保存業務を中心に、手帳・アルバムなどの事務製品のご提案をするなど、一貫してみなさんの「情報整理のサポート」をテーマに取り組んでいます。私ども兵庫ナカバヤシ(株)はその創業事業となる「図書館製本」部門を、ここ養父市で昭和48年(1973年)より担っています。学術雑誌や論文などの製本を行う図書館製本と、古文書などの資料の劣化状況に合わせた修理・修復や蔵書の整備支援を主な事業として行っています。その中で私たちは、人類の叡智と文化を未来に遺すことが私たちの使命と考えています。
社会貢献活動をされていますが、そのきっかけは。
地域での清掃活動や交通安全活動には以前から参加していますが、これはいわば誰にでもできる活動です。私たちは自分たちだからこそできる社会貢献はないかと考えました。仕事がら図書館とのおつき合いがありますが、破れたり、糸がほつれたままになっている本が本当にたくさんあります。現場に“初期治療”をできる人がいれば、状態が悪化する前に対処することが可能になり、傷みを軽度に抑えることができます。私たちの持つノウハウを地域の方々にお伝えすることで、本を“治す”作業のできる「本のお医者さん」を育てようと活動を始めました。
具体的にどのように取り組みをされていますか。
近隣の教育委員会にこうした趣旨を伝えたところ関宮からオファーがあり、一昨年、関宮公民館で実施しました。参加者が親子ということでしたのでフォトフレームを作ることにしました。その作業のなかでも製本工程で使う技術を学べ、簡単な本の修理にも役立ちます。その際、絵本の修理も50冊ほど行いました。翌年には豊岡と千葉でも実施しました。この折は図書館で働いている方や図書ボランティアが対象でしたので、より実践的な講座を行ないました。人間の体を治療するのと同じように、本を“治す”ときも、本の材質、構造、各部品の機能を知らないことには適切な“治療”ができません。まず、基礎的な学習をしてもらってから、実際に修復作業をしながら解説を加え、その後、みなさんに本の修理作業をしていただきました。
地域で活動をされることで何か影響はありましたか。
普段あまり外部の方と接する機会がない若手社員にとって、本を修復するワークショップで、参加者に説明をすることは、自らの知識・技術を再確認できるため、貴重な社員教育となっています。私自身も技術を見直し、確認することができてありがたく思っています。
そして、何よりも、参加者から「本を修復したい」、「技術をマスターしたい」という強い思いが伝わり、「本のお医者さん」がこんなにも必要とされていたのかと知ると同時に、本を大切に思う心に触れることができて嬉しく思いました。
一方、私たちが日ごろから地域の方と一緒に行なっている清掃活動や、地域イベント開催時に当社の駐車場を開放するなどのことを通して、地域の方々との顔の見えるおつき合いも定着しています。これらの活動を続けていくことで、私たちも地域の仲間入りができたように思います。
活動で一番心がけておられることは。
「本のお医者さん」活動は内容や形式を決めずに、参加者が求めておられるニーズを相談しながら掘り起こして実施するようにしています。私たちが本を“治す”のは簡単なことですが、ワークショップの参加者が技術を覚えて下さると、地域に持ち帰って他の方に伝えていただけます。参加者の中で、私たちがお話したことをわかりやすいイラスト入りの資料にまとめ、地域の広報紙に掲載してくださった方がありました。このように本を介した新たな出会いによって、活動が点から面に広がります。その結果として、「お医者さん」がふえることで、修復はもちろん、普段から適切なケアがされ、本が“長生き”します。
このように、この活動を通して「本をいつくしむ」心が広がっていくことを願っています。現在のところ、通常業務とのバランスも考えて取り組んでいるため、開催回数、場所をふやせませんが、今後も無理をせず、長く続けていきたいと思っています。
また、活動を継続していくことで、社内に社会貢献の文化や心が醸成されればと考えています。
今から社会貢献活動に取り組まれる方々にアドバイスをお願いします。
自分たちが持っている得手のものを他の人たちのために役立てる、その1歩をまず踏み出すことから始まると思います。そのあとは活動をするなかで意見を出し合い、すり合わせながら進めていけばよいのではないでしょうか。何よりも地道に続けていくことが大切だと考えています。