「環境」を考え次世代を担う「子ども」とともに取り組む
JAバンク兵庫信連 代表理事理事長 中村芳文さんにお話を伺いました。
□JAバンク兵庫信連(以下、信連)が地域貢献活動に取り組むようになったきっかけは?
平成14年3月に、金融機関としては珍しい『ISO14001』(注1)の認証を取得したことがきっかけです。取得の目的は、一つはISOを取得している取引先があるということ、一つはJA(注2)にISOを取得して欲しいと思っていること、そして、もう一つは職員に環境問題に関心を持ってもらいたかったからです。
環境、農業、食料等をめぐる問題が関心を集めている中、『ISO14001』取得する過程で、農業協同組合の職員として、環境問題について学んで欲しかったのです。
注1:ISO14000シリーズは、組織活動が環境に及ぼす影響を最小限にくい止めることを目的に定められた環境に関する国際的な標準規格。1996年に発行されたISO14001には、組織活動、製品及びサービスの環境負荷の低減といった環境パフォーマンスが継続的に改善されるシステムを構築するための要求事項が規定されている。
注2:農業協同組合。兵庫県内には、貯金、貸出等信用事業を行う14のJAがあり、信連が、これら県下各地のJAバンクを統括している。
□信連の地域貢献活動のキーワードは何でしょうか?
私が子供の頃の川は、泳ぐ場所であり、蛍などの昆虫がたくさん住む場所でした。しかし今、川岸はコンクリートで固められ、川の源である山は充分な手入れがされていません。山の栄養分が川を通って海に流れ込まなくなると、海の健康状態が悪くなり赤潮が出ることもあります。
私は、環境問題は“水”がキーワードだと思います。
水の大切さや危機意識は、みなさん感じておられると思います。頭の隅に、何かしなければという思いはあるのです。しかし、チャンスがない。
要は、「どう行動するか」です。
□職員の活動参加を促進する工夫はありますか。
企業が地域貢献をする時、上から命令したのでは職員には広がりません。正面から「環境問題を考えよう!」と言ったのでは、参加しにくいのではないでしょうか。
信連では、平成18年5月に『信連エコボランティアサークル』を発足しました。15名の職員の参加動機は、自然の中に行きたいとか、野外活動がしたいといったものでした。しかし、とりあえずは自分で汗をかくという体験が大切だと感じ、第1回目の活動として森林間伐ボランティアに参加しました。
また、活動の後、しばらく経ってからのフォローが大切です。「環境について」「水について」など、参加した職員で話し合う機会を設けました。すると、自分が活動したことと環境問題がつながってくるのですね。
そして、二度三度と活動に参加すると、環境の理念が分かってくると思います。
□信連エコボランティアサークルは、どのような活動をされているのでしょうか。
信連の地域貢献活動のもうひとつのキーワードは“子供”です。
宍粟市立波賀小学校では、6年生と共同で学校林の間伐作業を行いました。コウノトリとの共生を目標に無農薬栽培に取り組む豊岡市立新田小学校では、一緒に稲刈りをしました。
子供と保護者が一緒に汗を流すところへ、信連の職員も入れてもらうのです。
子供が活動に参加すると、その晩の食卓の話題になります。その時大人は子供の目線で、何のために木を切るのか、なぜコウノトリとの共生を目指すのか、といった話をしてあげて欲しい。その話が学校の友人や隣の家の人へと伝わっていけば、環境に関心を持つ人の輪がどんどん広がっていきます。
戦後の自然があふれていた状態から60年経った今、環境は危機的な状況にあります。それを元の自然な状態に戻すには、倍の時間がかかると考えています。
ですから、将来を担う子供たちには環境について考え、行動できる人間になって欲しいと願い、子供が環境に興味を持つきっかけになるような活動を行っています。
信連では他に、積極的な環境保全活動を展開する小学校(約400校)へ助成し、その活動成果の発表や各地域の小学生が交流を深めることを目的とした発表大会を実施していきます。
また、エコ定期貯金残高の0.01%にあたる寄付金を、環境保全活動を通して地域に貢献している兵庫県内の緑の少年団、小中学校へ交付するなど、いろいろな方法で環境保全教育活動を支援しています。
□信連の事業活動と地域貢献とは、どうつながっていますか。
信連は、相互扶助型の農業金融機関であるだけでなく、地域経済の活性化に役立つ地域金融機関でありたいと考えます。
地方は今、農業人口の減少や地域間格差など、深刻な課題を抱えています。また、日本の食料自給率は40%を切り、消費者にとっても切迫した問題となっています。
しかし、生産者と消費者はそれぞれに言い分があり、農産物1つとっても生産者の考え方と消費者の考え方がすれ違っているように思います。
この両者を結び付けられるのは、JAだと思います。
JAが地域貢献をすることによって、生産者も消費者も地域の人たちみんなが環境問題に関心を持つようになり、みんながより良い方向へ向かおうとすれば、地域は活性化すると思います。
□今後の展開は?
兵庫県内14のJAもいろいろな地域貢献活動を行っています。JAですから農業に関する活動が多いのですが、それらを含めて、一つの目標に向かう活動にしたいと考えています。信連が先頭に立って行動で示せば、きっと賛同者が現れ、大きな流れになると確信しています。
そして、時間はかかっても理念を間違えないで着々と続け、10年15年でどれだけ変わったかを見届けようと思います。
将来を背負って立つ子供に対しての活動の基盤を作っていくことが我々の役目でもあり、今後は、活動の質をより高めていきたい。
また、地域貢献は組織で考えなければいけない問題だと思います。活動とそれにまつわる作業のすべてを職員がボランティアで行うには無理があります。そのため、『信連エコボランティアサークル』事務局に、専従の職員の配置も検討していく必要があると考えています。
そして、活動には核となる人材がおり、一般の職員はいつでも参加できる、という仕組みを作っていこうと思っています。
□これから「社会貢献活動」に取り組もうとされている企業への一言をお願いします。
企業経営ではこれまでの経験から、こうすればどうなるということがある程度分かっていますが、企業が社会貢献活動をするのは初めての経験で、教科書がないのですね。ですから、自分で考えて、自分で決めなければなりません。
社会貢献について、各自が考える機会をつくり、その上で、いろいろな活動を、自らが中に入ってやってみることです。評論家ではだめです。
企業のトップが理念を持って、「自分の会社はこういうことをする」というものを、一つか二つ決めればよいのではないでしょうか。
子供たちのために、将来に向かって良好な環境を保全していくことは、現在の経営者の責任でもあると思います。ずっと先のことを見通し、自然は循環しているということを考えなければいけないと思います。