地域SNSでまちづくりのマインドを拡げながら新たなビジネスモデルを確立
どのような思い・きっかけがあって地域SNS「ひょこむ」(※1・2)を開発し地域に提供されるようになったのですか
もともとは、地域で生活している人、住みやすい地域づくりや地域の元気アップに取り組んでいる人、商店街や事業者がつながっていないなぁという思いからです。
地域SNSという情報ツールを使って、様々なニーズや困り事を抱えている人と、それらに応えることができるノウハウや情報を持っている人をつなぐことができれば、今よりもっと楽しく効率的に生活・地域づくり・仕事ができる、ひいては地域が元気になると考えました。
こうした人たちをつなぐプラットホームとなる「場」を提供したかったのです。
【※1 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)】
社会的ネットワークをインターネット上で構築するしくみで、人と人のつながりを促進・サポートするコミュニティ型の会員制のサービス。主目的は、人と人とのコミュニケーション。友人・知人間のコミュニケーションを促進する手段や場、あるいは趣味や嗜好、居住地域、出身校、「友人の友人」といった自身と直接関係のない他人との繋がりを通じて新たな人間関係を構築する場を提供している。人の繋がりを重視して「既存の参加者からの招待がないと参加できない」というシステムになっているサービスが多いが、最近では誰でも自由に登録できるサービスも増えている。
【※2 地域SNS「ひょこむ」】
兵庫県を舞台とした信頼と連携の「コミュニティ活動支援型地域SNS」サイト。加入については必ずメンバーの紹介が必要(アドレス http://hyocom.jp/)
地域SNS「ひょこむ」の特徴を教えてください
機能面では、基本的なSNS機能に加え、情報を発信者がコントロールする「アクセス制御・コメント制御」、地域のさまざまなニュースを判りやすく見せる「マップ・イベントカレンダー連動機能」、簡単にムービー登録ができる「動画配信機能」など、情報の発信・交流機能が充実していることです。
当初は、無料のオープンソースを使ってプログラムを開発しようとしていましたが、社員が「人が創ったソフトでは思うように改造しにくいので一から開発したい」と言い出して。思った以上に時間はかかりましたが、かなり完成度の高いシステムになっていると自負しています。
次に、兵庫県内外の地域の皆さん、事業者、行政職員など、立場は様々ですが、地域の明日を思う同じ志を持った人たちが集いフランクに話ができる「場」に育ってきたと思います。何より大人の「場」だと言えますね。
こうしたネット上の世界では珍しいことに、変な書き込みや個人攻撃がないのです。会員間で、そういうことができない雰囲気ができている。何かをやろうとする人を他のみんなが気持ちよく応援しようとする感じです。
地域SNS「ひょこむ」と事業活動との関係についてはどのようにお考えですか
地域づくりは、事業活動の延長線上にあるものと考えています。事業活動上の技術やサービスを地域づくりに活かし、さらに、地域づくりの過程で新たに生まれた技術やサービスを事業活動にフィードバックする。
このように、地域づくりと事業活動をうまく循環させ、地域と企業の息の長いウィンウィンの関係を築いていきたいと考えています。新たな商品やサービスが次々と生まれては消え、同じものが何十年ともつ時代ではありません。
こうした中で、企業の技術やサービスを地域に投入し、貢献する一方で、新たなビジネスモデルを構築するという視点を持つことも必要ではないでしょうか。
「事業活動」と「社会貢献活動」をうまく循環させるしくみについてもう少し詳しく教えてください
「ひょこむ」の出発点は、地域を舞台にしたSNSの可能性を探る実証実験でした。このサービスを地域に無料で提供し、実際に使っていただき、皆さんの声を聞きながら、改良を重ねてきました。
そこで生まれたSNSプログラムを活用して、ASP事業(※3)を展開しています。現在、全国11箇所に「ひょこむ」と同モデルの地域SNSを提供していますが、利用者は、サーバー使用料等のほか、月々2~3万円程度の低料金で地域SNSを持つことができます。
ASP事業といっても、他地域の地域づくりを応援する趣旨なので、ここでお金儲けをするつもりはありませんが、一方で、「ひょこむ」開発をいつまでも僕たちだけで抱え込んでいては、とても経営が持たない(笑)。そこで、このSNSプログラムをオープンソース化し、関心を寄せる全国の開発者がさらなる改良を加え、育ててくれるしくみを構築しました。
現在、そうした開発者が全国に約30名おりますが、いずれは組織化の上、プログラム開発から利用者サポートまでできるようにして、その収益をさらなる開発経費に投入していくことができればと考えています。
ちなみに、ここで改良された機能は、ASP事業の地域SNSにも自動的に反映されるようになっていて、「ひょこむ」だけでなく全国各地の地域SNSの機能もどんどんレベルアップしていくわけです。
このように、開発を自分たちだけで抱え込まず様々な主体を巻き込むことで、僕たち、その他の開発者、利用者、みんなにメリットがあるから長続きするというモデルが、ようやく軌道に乗りつつあります。そういう意味では、既に「ひょこむ」は僕たちの手を離れ、みんなのもの(社会の公器)になりつつあると言えますね。
【※3 ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)】
業務用のアプリケーションソフトをインターネットを利用して、顧客にレンタルする事業者あるいはサービスを指す。利用者はインターネットに接続された環境で、ブラウザソフトを使ってASP事業者のサーバにアクセスし、ASP事業者から提供される各種アプリケーションソフトを利用する。社内等でのシステム管理が楽になるなどのメリットがある(ソフトウェアのバージョンアップやバグ修正などの保守作業はASP事業者側が行う)
「社会貢献活動」に必要なコストや人材についてはどのようにお考えですか
「事業活動」と「地域づくり」を循環させるしくみについてはご説明しましたが、そもそも、情報分野のコストは、仕入れがほとんどなく、要は開発費(人件費)なのです。そういう意味で取り組みやすい分野かもしれませんね。
また、社員は私を含め6人ですが、「ひょこむ」開発に携わっているのは、私のほか1.5人の社員です(笑)。
社員は基本的に定時に帰っていますよ。自然農法をやりたくて都心部からUターンで帰ってきた社員もいるし、地域で子育て支援に取り組んでいる社員もいる。みんな地域でやりたいことがあって忙しいから、仕事ばっかりやっていられない(笑)。
ただし仕事は、私や社員が面白いと思えること・自分たちの能力を活かせることしかやらない。おかげでうちの仕事の能率はとてもいいと思いますよ。これは私自身が地域づくりに携わって学んだことです。
「社会貢献活動」が「事業活動」に与えるインパクトについては、どのようにお考えですか
新技術開発やビジネスモデル構築の機会となったことはもちろんですが、何より、社会貢献は、経営者自身の度量を拡げる良い機会だと思っています。俯瞰して物事を見る目が養われる。
また、経営者は誰もがそうだと思いますが孤独なのです。そんな中で数字ばかり見ていると嫌になってくる。社員だって同じではないでしょうか。
経営者である和崎さんご自身の「社会貢献活動」に対する思いの原点は、どのようなところにあるでしょうか
もともと、父親が経営していた「野島電気(有)」を引き継ぎました。僕はその頃から、IT事業をやっていたし、青年会議所で地域づくりにも携わっていましたが、両者がつながっていなかった。
その転機となったのが、阪神淡路大震災でした。商工会議所が、全国から寄せられる救援物資の集配拠点となっていましたが、どこでどんな物資が不足しているのか、それらがどこにあるのか、両者をマッチングする情報ボランティアに取り組みました。
全国の人が応援してくれているという思いとともに、一人の人間として、ボランティア活動などと意識する間もなく1ヶ月がむしゃらにやりました。その中で、情報で人の思いをつなぐ社会貢献の方法があることに気付いたのです。
また、避難所にも直接入って活動する中で、被災者の方たちが互いを思いやり助け合っている避難所もあれば、そうでない避難所も見てきました。普段から、ご近所の井戸端会議が盛んだったり、商店街が元気だったり、地域の人たちのつきあいが生きている地域の避難所はうまくいっている気がして、地域コミュニティの大切さを痛感しました。
こうした震災時の思いを形にしたくて、現在のインフォミームを立ち上げました。
社名のインフォミームは、Information(情報)とMeme(文化遺伝子)の造語で、地域社会の文化を情報を使って広げ深めようという志を現したものです。父親からは「ボランティアもいいけど、もっと性根入れて商売せんと!」と言われていますが(笑)。
10年近くかけここ2、3年で、ようやく僕たちの事業活動と地域づくりのスタイルが定着し、社員や地域の皆さんにもだんだん理解してもらえるようになってきたのではないかと思っています。インフォミームを立ち上げたときの夢に一歩一歩近づいてきたかなぁ。
現在の「社会貢献活動」の課題や今後の展望については、どのようにお考えでしょうか
地域づくりは産学官民でやらないとなかなか進みません。今はその礎づくりの時期だと思うので、多くの経営者や社員が地域づくりに関わりやすくなるような基盤を創っていきたいと考えています。
また、地域づくりの手法は様々ありますが、地域SNSは、ドミノ倒しのように地域づくりの輪を連鎖させ拡げていくのに大変有効なツール。これからの地域づくりにきっと役に立つという確信を持ってやってきました。
ただし、こうしたITツールは、実際に利用してみればハマること請け合い(笑)なのですが、馴染みのない方には大変とっつきにくいものです。パソコンや携帯電話を使わない方も沢山おられますしね。
一方、誰もが親しんでいる情報媒体といえば、やはりテレビなので、地上デジタル放送開始にともないアクトビラ(※4)機能と「ひょこむ」を連動させ、テレビを通じて誰もが簡単に地域情報が入手できるシステムに育て、利用者の輪をさらに広げていきたいと考えています。
【※4 アクトビラ】
インターネットのブロードバンド接続を利用して、対応するデジタルテレビ向けに情報コンテンツや動画コンテンツを有料配信するポータルサービスの名称。対応する専用のテレビ受像機を用いることで、従来インターネット経由での画像配信にはパソコンが必須であったのを不用とし、コンピュータに慣れないユーザー層も、容易に有料動画コンテンツを楽しむことができる。
これから「社会貢献活動」に取り組もうとされている事業者の方にアドバイスをお願いします
第一に、最初から大きなことをしようとしないこと。
第二に、経営者や社員が「面白い」と思えることをやること。
第三に、事業活動で培った技術や経験を最大限に生かすこと。
第四に、社会貢献をしていますという実績づくりではなく、活動のアウトプットをちゃんと意識して企画実施すること。
第五に、経営者が社員や地域の皆さんと一緒に汗をかくこと。
そうすれば、自分たちに何ができるのか、メリットが何なのかが明確に見えてくると思います。地域で目立ったことをするとやっかみの声が出ることもあるけれど、僕は、言いたい者には言わせておけと割り切っています。
最後に、もちろん会社経営が成り立つように。社長の趣味道楽では、社員をはじめ誰も納得しませんから。