“人とのつながり”が生んだ産学学連携
~漁船による事故が無い安全な漁業現場を目指して~
事業者名 | 株式会社ディーエスピー リサーチ |
甲南大学 |
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代表者名 | 代表取締役社長 中西 伸浩 | 学長 杉村 芳美 |
設立 | 1994年5月 | 1951年4月 |
資本金 | 9,000万円 | ― |
社員数 | 20名 | 500名(教職員) |
所在地 | 兵庫県神戸市中央区港島 南町1-4-3 |
兵庫県神戸市東灘区岡本 8-9-1 |
主な事業活動 | 検査測定・認定事業等 | 教育・研究・社会貢献等 |
ホームページ | http:/www.dspr.co.jp/ 株式会社ディーエスピー リサーチのページへ |
http://www.konan-u.ac.jp/ 甲南大学のページへ |
掲載日 | 平成25年8月27日 |
株式会社ディーエスピーリサーチ
認証部部長 兼 技術開発部部長 富樫 浩行さん
執行役員 営業本部長 新田 哲也さん
甲南大学 フロンティアサイエンス学部 教授 兼 フロンティア研究推進機構長
西方 敬人さん
公立はこだて未来大学 システム情報学部 教授 兼 マリンIT・ラボ ラボ長
和田 雅昭さんにお話を伺いました。
今回、船舶航行安全システムを船舶航行の密集する大阪湾に適応させるために、株式会社ディーエスピーリサーチ(以下、DSP Research社)が
甲南大学フロンティアサイエンス学部(以下、FIRST)と協力し、アンテナを設置したそうですね。
「船舶位置航行システム」とはどのようなシステムなのか、システムを作成された公立はこだて未来大学の和田雅昭先生にまず初めにお伺いします。
私は、公立はこだて未来大学情報アーキテクチャ学科で、水産情報学を専門としています。
北海道では漁船海難事故の70%以上が転落事故で占められており、その生存率は20%を下回っています。
これは、北海道の大きな社会問題の一つとなっており、早急な改善が求められています。私は「もっと人の命を助けたい」という思いから、海難救助に関する研究に取り組んでおり、そこで、船の位置情報をお互いに共有することで事故を減らせるのではないかと考えています。
今回、キーワードとなる船舶航行安全システムとは、船の位置情報を知らせるシステムのことです。大型船ではAISという位置情報取得システムをつけることが法律で義務化されていますが、AISは高価なものであり、さらには日本の9割の船は小型船でAISをつけていないことがほとんどです。
そこで、私は漁船による海難事故の救助支援システムを発展させ、小型船の位置情報取得システムを構築し、さらに、船の位置情報をリアルタイムで確認するために、タブレット端末で使用できるアプリケーションも開発しました。
今回の連携への思いと今後のシステムの活用について教えてください
今回、大阪湾での漁船海難事故や鰆の流し網漁での事故の相談を受け、このシステムを漁船量の多い大阪湾でも適用できないかと考えました。
そこで、DSP Research社の仲介のもと、FIRSTに情報を受信するアンテナを設置することになりました。
アンテナを立てる場所を見つけるのは大変ですが、仲間に相談すると今回のように上手くいくこともあります。私は、産学学連携のポイントは、チームで解決できるような方法を考えることかもしれないと思っています。色んな活動があり、その活動同士の組み合わせ次第ではないかと感じています。
今後、瀬戸内海全域にモデルケースを作ろうと考えています。モデルケースが出来れば、民間企業などの他の団体がこのシステムを多様な用途に活用しやすくなり、日本のみならず世界中にこのシステムが適用できると考えています。
DSP Research社はシステムで使うアンテナをFIRSTの屋上に設置されたと伺いましたが、普段はどのような事業をされているのかお聞かせください
私どもの会社は、電波を取り扱っている企業です。携帯電話や無線LANなどの通信機器が電波法に適合しているかを行政に代わって試験し、携帯電話などに付いている暗証番号を発行するとともに、違法な無線機器が市場に出回らないようチェックを行っています。
また、機器認証だけに留まらず、使用している電波が人体に影響を及ぼさないかも試験し、安心・安全な電波の提供を行っています。それらの技術は医療機器をはじめ方面でも利用され、われわれの日常生活に不可欠のものとなっていると考えています。さらに、電波法を新たな技術に対応させるべく、民間や企業の意見を総務省や他の省庁に伝えるパイプ役も担っています。
DSP Research社は今回の事業に、アンテナ設置以外にも様々な形で携わっているようですね
今回の活動では、船舶の情報を効率よく受信できるように、電波のプロとして電波の認証に協力しました。
この活動において、2つの課題があると考えています。
1つ目は、情報をどのように加工し、どのように必要な人に配信するかということです。このシステムで取得した情報は電波法や個人情報保護法に触れるため保護する必要があります。そこで、取得した情報を一つのデータベースに一旦収集し、タブレット端末に選択的に配信することで、この問題を解決しました。
2つ目は、新たに開発された技術と一般社会のニーズに法律が追いついていないことです。今回は研究目的にシステムを使用するため厳しく制限されてはいませんが、これが企業で使用するとなると新たな法制度が必要となります。そのため弊社は、社会のニーズに対応した法律となるように行政に働きかけているところです。
DSP Research社が行っている社会貢献活動についてお聞かせください
弊社は民間や企業、行政とのパイプラインとして活動していくことも、一つの社会貢献として考えています。さらに、「次世代の人材を育成していく」ことも社会貢献の一つとして考えており、その一環としてインターンシップを行っています。インターンシップを通して社会を若い世代に体験してもらいことで、
社会の厳しさや楽しさをわかってもらうことがねらいです。弊社では、新入社員のときから高価な計測機器などを使用させ、早いうちから実用的な実践を積むことで、使える人材を育成しています。
今後弊社では、社会全体の抱えている問題を解決し、地域を活性化出来るように更なる取組みを考えていこうと思っています。
甲南大学と甲南大学フロンティアサイエンス学部(FIRST)の社会貢献活動についてお聞かせください
甲南大学は、大学で生み出される「使える知」を社会に還元する産学連携を推進しています。また同時に社会連携にも積極的に取組み、学生のボランティア活動や地域イベントへの協力などもどんどん行っています。甲南大学は、そういった活動を支える専門家集団としてフロンティア研究推進機構(略称
FRONT)を設置し、人と人とのつながりを大切にすることで、社会に根ざした大学を目指しています。
甲南大学フロンティアサイエンス学部(FIRST)は、2009年に神戸ポートアイランドの医療産業都市の中心に新設されました。FIRSTでは、生命現象の神秘を探究する「バイオテクノロジー」と分子や原子を操る「ナノテクノロジー」を融合した、最先端の科学である「ナノバイオ」を学ぶことができます。本学部では、ナノ・ケミカル・バイオ・
ナノバイオと幅広い分野を学び、理系分野の新しい人材を育成しています。優れた人材を輩出することは、後に地域の活性化に繋がると考えています。学生たちの可能性や能力を伸ばすための「教育」というのは、将来に向けての社会貢献です。それと同時に「教育」は、まさに学生と教員や職員とのつながりです。FIRSTでは少人数教育を徹底し、
社会につながる教育を実践しています。甲南大学のコンセプトとFIRSTで日々実践している社会貢献への努力が、今回の産学学連携の一助になれたことは大変うれしいことです。
最後に、西方教授にお伺いします。今回の連携に対する思いと今後の展望をお聞かせください
今回の船舶航行安全システムに関して、和田先生の熱い思いに応える形で、最適な立地条件であったFIRSTがこの活動に参加しました。その際、DSP Research社の協力があったからこそこの産学連携が実現したと思っています。
何かしたいと思っているものがなければ、何も動かないと考えています。また、自分達が重要な役割を担っているという自負心も必要です。今回の事例は、それぞれが持つパッションがつながった事例であり、それぞれの意思が影響していると感じています。
甲南大学は、大学間のみならず、企業とも連携して産学連携による社会貢献を目指しています。今回の活動に参加したことで、FIRSTにアンテナが立ち、大阪湾全域の漁船の位置情報が受信できるようになりました。船舶航行安全システムが普及することで、和田先生が理想としている漁船による事故が無い安全な漁業現場が実現することを願っています。
取材を終えて・・・
<甲南大学 フロンティアサイエンス学部 1年 三藤 嵩大>
<甲南大学 フロンティアサイエンス学部 1年 宮永 あゆみ>
<甲南大学 フロンティアサイエンス学部 1年 山本 真史>
<甲南大学 フロンティアサイエンス学部 寄崎 遼>
今回の活動は、和田先生の「人の命を助けたい」という思いに賛同し、社会貢献に対する熱意や姿勢を持った三者が偶然出会ったことから始まった。
人と人との繋がりは、偶然から生まれる。偶然は縁であり、一つ一つの縁を大切にしていくことで自分とは違う考え方に出会い、学ぶことができる。そうすることで自分の狭い視野を広げ、様々な視点から物事を考え、他者と様々な考えを共有することができる。
そして、3者を結束させたのはそれぞれが持っていた社会貢献に対する“熱意”と“行動力”である。ただ、熱意は持っているだけでは実現しない。そこに、人が賛同し、人の思いが突き動かされ、人が行動することで実現するのだ。人と人との相互作用、つまり「人と人との繋がり」が何よりも大切なのである。
今回の活動においても、システムはもちろんのこと、行政とのパイプの役割、アンテナの設置場所、つまり一つでも「産」もしくは「学」が抜けていればこの活動は成り立たなかっただろう。
今回の事例は、「電波」「情報」「アンテナ」など、最新技術と最新システムが融合した新しい連携の形とも言えるのではないだろうか。そこには、新しい人と人とのつながりができ、それがインターネットやメールなど世界の距離を縮める新しい技術により、よりスピーディにより緊密に発展したことは、今回インタビューした
すべての方々がおっしゃていた。しかし、今回みなさんが一堂に会し、和気藹々と互いの熱意を語り合っていらっしゃる様子は、メールだけでは足りないface-tofaceの人のつながりの重要さを改めて示していると感じた。
今回、インタビューに快く答えて下さった、公立はこだて未来大学の和田先生、並びに、DSP Research社の富樫様、新田様、甲南大学フロンティアサイエンス学部の西方先生に、この場をお借りして御礼申し上げます。
本日はありがとうございました。