「伝統産業の継承の中での社会貢献」
企業名 | 光洋製瓦㈱ |
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代表者名 | 代表取締役社長 笹田 奈都子 |
設立 | 昭和61年11月(創業 大正13年3月) |
資本金 | 1,000万円(平成20年4月 1日現在) |
社員数 | 13名(平成20年4月 1日現在) |
所在地 | 兵庫県姫路市船津町5241-5 |
主な事業活動 |
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ホームページ | |
掲載日 | 平成20年8月26日 |
光洋製瓦株式会社 代表取締役社長 笹田奈都子さんにお話を伺いました。
光洋製瓦株式会社が伝統を守り、製造している「いぶし瓦」について教えてください。
生野銀山と姫路の飾磨港を結ぶ通称「銀の馬車道」(注1)沿いの姫路市船津町あたりには、昔から良質の粘土があり、全国に知られる“神崎瓦”の産地でした。昭和の初め頃までは多くの瓦屋が軒を並べていましたが、大きな時代の変化の中で、現在は数社のみとなりました。
当社は、昔ながらの「みがき」工程を大切に守り、4日間じっくり焼成させて生まれる“いぶし瓦”を製造することによって、姫路城「昭和の大修理」をはじめ、数多くの重要文化財や神社仏閣、城郭など、特殊瓦を用いた伝統建築を後世に残すという、重い責任を果たしていると自負しています。
注1:「銀の馬車道」は、明治の初め生野と飾磨港を結ぶ道として作られた、当時の高速道路というべき馬車専用道路である。
人を育てることに力を注がれているとお聞きしましたが。
最近、自分は人間として駄目だ、と思い込んでいる若者が増えているように思えます。でも、人間にはそれぞれ持っている能力があることを知ってほしいのです。そして、自分のポジションを見つけて、能力を生かしてほしい。
社会的対応力が難しい人に対して、手をさしのべ、自分たちでフォローをしていくことは当然であると考えています。「いぶし瓦」づくりという現場に入ってもらい、何とか自立できるところまで支援を行い、伝統産業の中で働くことによって自信を持ってもらうようにします。倒れている時は、誰かが引っ張って立たせてあげないといけないと思うからです。
また、一生懸命取り組む姿を他の方に見ていただき、伝統産業に取り組む姿を認めてもらい、社員が誇りを持って仕事に取り組めることができるようにしてきました。
平成19年8月2日、兵庫県公館で行われた「人生まなび塾」(注2)の入塾式後、第1回セミナーを当社にて行い、姫路城の瓦職人の技を若い方々に体験していただきました。
職人なら、技を身につけ磨いていけば、勲章を貰うこともできます。それは瓦職人も同じで、また、作った作品が数百年も残っていくことを実際に見てもらいました。
夢を見れば叶うことを知って欲しいという気持ちから、塾生には「人生に一歩踏み出す勇気を!」という言葉を贈りました。
今後とも、若者に対して光洋製瓦としてできることは何かを模索し、継続的なものに発展させていきたいと思っています。
注2:兵庫県では、次世代を担う若者に、生きていくこと、働くことのすばらしさ、魅力を伝え、多様な人生観や職業に触れる機会、コミュニケーションの場を提供する「人生まなび塾」を開講。約30名の塾生が、平成19年7月~9月の間に3回のセミナーと就労体験を行った。
他にも子供たちを受け入れていらっしゃいますね。
3年前から学校教育の一環としての体験学習や研修などを受け入れてきました。
地元の船津小学校の子供たちも体験にやってきます。
子供たちには、まず製品を見ながら100年以上の耐久性があるいぶし瓦の説明をし、次に製造工程に沿って工場内を見学してもらいます。一枚一枚に手間をかけて作っている職人の誇りを感じてもらえたらと思います。最後は陶芸体験で土の面白さに触れてもらいます。子供たちの作品の発想には、私たちも驚かされることがあり、楽しい刺激になっています。
地元の子供たちには、こんなすばらしい技術が伝承されていることを知り、自分たちが生まれ育った土地に誇りを持ってほしいと願っています。
私たちは瓦職人集団として、「瓦は建物の安心と安全を守り、建物に生命を吹き込むもの」という信念のもと、瓦を作り続けています。
しかし、伝統建築でさえ価格競争にさらされ、今、日本の文化財が危機に立たされていることを、どれだけの日本人が知っているでしょうか。
当社で瓦に接して、いい瓦とはどんなものかを知っていただくことによって、千年の時を超え守り続けてきたものを次の世代へ渡すことの責任に気付いてもらえるものと思っています。
「銀の馬車道プロジェクト」と連携した事業を始められるそうですが。
経済産業省の第1回「地域産業資源活用事業」で認定された『銀の馬車道プロジェクト(注2)に因んだ体験型産業観光「いぶし瓦の技術を活かした体験プログラム」の開発と提供』という事業です。
当社は、瓦の材料や製品の運搬などに「銀の馬車道」の恩恵を受け、ともに歩んできた歴史があることから、「銀の馬車道プロジェクト」と連携し、これまでの研修受け入れの経験を活かして、体験型観光事業をビジネスとして本格化させようとするものです。いぶし瓦の技術を活かし、「教育旅行」や「中高年の趣味の旅」などを企画していきます。
なぜ瓦屋が観光を、と思われるかもしれませんが、たくさんの人が当社を訪れ瓦を作っている工程を見ることで、瓦に対する理解を得ることが出来ます。また、人が集まることによって地域が活性化することを目指しています。
伝統産業を継承していくためには、様々な考え方や事業実施のアプローチによる取組みが必要であり、その中で、地域への貢献も果たしていくことが必要であると考えてきたのです。
注3:「銀の馬車道」を中播磨南北交流のシンボルとして掲げ、多彩な交流と地域の活性化をめざした様々な事業を商工会議所・商工会をはじめ青年会議所、旅行社、マスコミ等を構成メンバーとした銀の馬車道ネットワーク協議会が推進している。
光洋製瓦株式会社の使命とは?
私は、一人でも多くの人に瓦について知ってもらいたいと願っています。
「いぶし瓦」の技術は、今私たちが預かっているだけで、自分のものではなく、次の世代へ渡すという使命を持って、私はここにいます。
私たちが途絶えさせてしまえば、次世代はこの伝統を受け取ることが出来ません。
日本の瓦は危機的な状況にありますが、極限の状況に立たされたとき、己の内から可能性が大きく拓くことを信じています。
幾度もその道を歩き、己を磨いた人をいぶし瓦の輝きにたとえ「いぶし銀」と言います。
「いぶし瓦」の技術を守るために、いぶし銀を用いたインテリア製品の開発や、一つの方法として異業種との連携等により伝統をつないでいこうと考えています。それが、地域社会の活性化や人々の幸せにもつながっていくと思っています。
社会貢献活動は、自分達の持ち味が何かを考えていくことが必要であり、何ができるのかを見つけていくことも大切であると思います。それが世の中で受け入れられると、それぞれの立場における誇り、人々の幸せにつながっていくものと思います。
また、「いぶし瓦」づくりを通して、職人を育てていく一方、職人が懸命に取り組む姿を小学生達にも見てもらい、伝統産業への理解、日本文化への愛着を感じてもらいたいと考えております。それが、子供の教育の一助となるのではないでしょうか。
そして、光洋製瓦は、日本伝統の「いぶし瓦」のいのちを守ることが、日本文化、社会への貢献だと思っています。